18.44m
3回のタイムはもう使い切ってしまった。
駿をマウンドへ呼ぶことはできない。
問うことも言葉をかけることもだ。
どうすればいい。
このままでは、バッテリーごと崩れてしまう。
吐き気がする熱気に包まれながら、遥は必死に目をこらした。
バッターボックスには、あいつが立っている。
目が合った。
この暑さとは対極なくらい、冷たい瞳だ。
敵だからそう見えるのかもしれない。
相手チームのピッチャー、5番の選手は、マウンドに立ち尽くす遥を見ていた。
困惑することも嘲笑することもなく、ただ見ているだけだった。
熱い空気をすいこみ、遥はロージンバックを右手の上で跳ねさせた。
ふわりと白い粉を吐き出すそれをマウンドに落として、帽子をかぶり直す。
束の間目を閉じて、ひりつく焦りをどうにか落ち着かせた。
駿が新しく替えてから4年間、ずっと向き合ってきたミットを見つめる。
あそこに投げ込めばいい。
サインが無いのなら、あいつが構えているあの位置へ、ボールを投げればいいんだ。
遥は息を吐き、投手板を利き足で踏んだ。