18.44m
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駿がいる。
キャッチャーマスクにプロテクター、レガースまできっちり身につけている。
ミットをしっかり構えていた。
ちら、と後ろを見れば、いつも背中を守ってくれる仲間の姿がある。
ボールも、右手に収まっている。
よし。
遥は軽く息を吸い、両腕を振り上げた。
無理な力も無駄な負荷もかけない、身体じゅうにしみついたオーバースローのフォーム。
指先に神経を集中させ、左足を大きく踏み出し、駿に向かって白球を放った。
ミットまで一直線。
そのはずなのに、音は聞こえなかった。
使いこまれしっかり手入れをした駿のミットが、ボールをつかまえる音。
心の底から安心できる音。
駿?
顔を上げると、本塁はからっぽだった。
投げたはずのボールすらない。
白いベースがやけにくっきりと見えて寒気がする。
遥は振り向いたが、誰もいなかった。
自分だけを置き去りにして、仲間はいなくなっていた。
駿。みんな。どこだよ……。
くらりと目眩が起こり、ホームベースが歪む。
そこにあいつが立っていた。
後ろ姿だが、あいつだとすぐに分かる。
忘れもしない選手だ。
その背中が急速に遠ざかる。
遥はマウンドから駆け出し、思いきり手を伸ばした。
待て、待てよ。まだ勝負は終わってなんか……