同居人は女社長
夜更けにレッドが台所で甘くないクッキーをつまみながら、ワインをあけているとややぶかぶかなパジャマに大きなアヒルのアップリケのついたガウンを着たエリンが現れた。


「お疲れ様~。これが例のクッキーね。」


「お疲れさん、もうそろそろかなってさっき準備したよ。
ワインによくあうんだ。どうぞ。」


「あっ・・・ワインもなんか特殊だわ。」


「うん、この町の端っこのブドウ園のワインだ。
ジュースみたいな軽さだろ。

男からすれば、こういうのはあまり飲まないだろけど、俺は仕事のあとはこれでいいと思ってるんだ。
もともと深酒とかできない人種なんでね。」


「うん、朝から仕事があれば、こういうのはとてもいいわね。
ソフトドリンクだけだとお子様みたいでガブガブ飲みすぎてしまうわ。

やっぱりストレスが多いのかしら・・・。」


「そうだろうな。会場での君を見るとね・・・。
だけど、今の君を見ると・・・くっ・・・くく・・・ふふっ」



「あっーーー!バカにしてるのね。
どうせ見かけしか男の人は見ないんだわ。

でもうちの会社の方が経営状態はずっといいのよ。」


「そうだな・・・。いろいろ会った人からもきいた話で、ドネリティは君がよくやっているときいた。
いかに優秀なのかもね。」


「そう・・・。じゃ、ごちそうさま。
私、そろそろ寝るわ。
朝から会議なの。」


「待てよ。
俺が笑ったのは、バカにしたんじゃない。気に障ったら謝るよ。
ハデハデ美人もいいけど、俺はボサボサの洗い髪にパジャマにガウン姿の君と話せる立場でうれしいと思っただけだから。」


「えっ?」



「なんつ~か・・・妹たちもそうだけど、着飾ってるときって戦闘服みたいに思えるんだ。
やっぱり、のびのびして我が家でわがまま言ってるときの元気なあいつらの方が俺の妹だって実感するし、いい顔してると思ってる。

君もそうだなって思ったんだ。
ハデな美人もいいけど、素朴なのがいいなって。」



「素朴かな・・・。」



「ああ、とてもいい感じだ。」



「私ね、ここにきたときはレース使いの夜着を着ていたのよ。
でも、おばさまが年相応じゃないって私に注意してくれたの。」



「母さんが?」


「ええ。レースの夜着はとくにハデとか大人っぽくもなかったの。
私の母がそういう趣味だったから。

でもおばさまはここの生き方にはあわないって言って、これになったの。
そしたら不思議なんだけど、寝るときに仕事のことを考えないようになったの。」



「なるほど・・・パジャマとかわいいガウンは嫌な過去やストレスを消してくれるアイテムか。
きっと、母さんにはそんな難しいことはわからなかったんだろうけど、ここの娘になってほしかったのかもな。
リラックスしておやすみ。」


「ええ。レッドも食べ過ぎないで眠ってね。」


「ああ。」
< 10 / 65 >

この作品をシェア

pagetop