同居人は女社長
記憶がまだもどらないにせよ、自分の記憶を知っている人物が多い町にもどってきたエリンは、準備をすすめていたデザイン事務所兼ショールームの開店へ向けてがんばることにした。

記憶はなくても、体が絵を覚えていて、描くことができたことや、クリーブの庭で描いたスケッチなどをもとにして新しいデザインも取り入れた食器やハンカチなどの小物なども用意することができた。



「頭は忘れていても、体はちゃんと覚えているんだから、不思議ね。」


「それを才能っていうんだよ。
君の考えたものたちは人気があるし、売れる時期でもあるんだ。
稼げるうちに稼いでおけってな。」


「そうね、私がお婆さんになる頃には流行遅れになって、昔はよかったって言いながらこのお茶碗でお茶をすすってそうだもん。」



「嫌かい?そういう未来は。」



「わかんない・・・でも昔は・・・って言えるお話相手がいないとね。」



「そうだなぁ。昔はまさかいっしょに住むなんてことすら、許されなかったよな。」


「ぷっ・・・もう、レッドったら、まだ私たち昔話に花を咲かせる年じゃないのに!」


「お話相手がいないと!っていったのは君だろう?
ふ、ふはははは。」



「冗談はそのくらいで、そろそろ営業にいってきます。」


「ちょ、営業って・・・どこへ行く気なんだ?」


「マルティのところよ。」


「兄貴のとこだってぇーーー?
なんで兄貴のレストランへ行くんだよ。」


マルティリオ・メイタスはレッドとラングの兄でメイタス家の長男である。
会社勤めがあわないという理由と、メイドをやっていた妻の影響もあってファミリーレストランを経営している。


「昨日、料理を届けてくださったの。
おじさんとおばさんから私のことをきいたって心配して。」


「お料理のお礼と私の新作のお皿をお店で置いてもらえないか、きいてみようと思って。」


「なるほど・・・そりゃ、いいアイデアだな。
兄貴の店も立地がいいから、最近は夜はけっこう混んでるしな。」


「でしょう?だからサンプルを用意したのよ。」


「じゃ、俺も行く。営業は俺の仕事だろ?」


「そうだったわね。じゃ、お願いします。」



「おお、俺に任せろって。」



マルティの店でいくつかの料理を出してもらいながら交渉に入った。


「へぇ、メニューも増えたなぁ。」


「驚いたか?もともと煮込み中心だったし、あんまり器の柄だとか気にしなかったんだけどな。
最近、メニューが増えてきたら、ちょっと変化もあった方がいいんじゃないかって妻がいうんだよ。」


「そうね、シチューとかいれる目安のラインがわりにもなるし、アルバイトでも量をわかるきっかけになりそうだわ。

それと全部食べたときの満腹感とお皿が残ったときの楽しさみたいのもあってもいいわね。」
煮込みの種類とお料理の色別にどんな器を使ってるか教えてもらえますか?」


「わかった。あっ、今使ってるのはもともとはレッドのとこのガオンティル社のが多いから、その分類から説明するよ。」


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