苺なふたり
「本当、ショートケーキを食べてる百花ってかわいいな」
「な、何よ」
「ショートケーキを追い求めるみたいに、信吾にも全力でぶつかれば良かったのに。そっち関係は本当にへたれだったよな」
「むむっ」
「怒るなよ。本当のことだろ?百花がおさななじみへの不毛な思いに右往左往している間に、亜季にかっさらわれたんだろ?」
「かっさらわれたって……まあ、そうだけど」
確かにそうだけど。
今更私の負の歴史を言い出さなくてもいいのに。
幼稚園の頃から、近所に住んでいた信吾が大好きで、いつかはお嫁さんにしてもらおうと夢みていた私の思いに信吾が気づくこともなく。
『お互いに一目ぼれだったらしくて……』
そう言いながら信吾と亜季がふたり揃って我が家を訪ねてきた高校一年の夏休み。
照れながらもしっかりと繋がれた二人の手を目の前にして、私は「そ、それはおめでとう」としか言えなかった。
あの時、他にどう言えば良かったというんだ。
私が信吾を思って生きてきた長ーい時間をひとっとび、亜季は魔法でも使ったのではないかというほどの早業で信吾を手に入れた。
ここでいう魔法というのはきっと、亜季の純粋すぎる恋心が信吾の心の琴線を震わせたというものなんだけど。
反対に、私のしぶとかった恋心は誰に伝えることもできないまま厳重に封印され、心の奥ふかーい所に隔離。
二度と戻ってこないで、と強がり全開で消し去った思いに、何故か功司だけは気付いていた。