違う
近くの喫茶店へ行き、コーヒーとココアを頼んで話に移った。
「あなたの名前は?」
「山神 冬です……」
「やまがみ……ふゆね。がみは神でいいの?」
「あ、はい。そうです」
警察手帳にメモをとりながらそのときの様子を聞いた。
「早速本題に入るけど犯人を見たっていうのは
……どこで?」
「そこのアフタービルの出入口で……」
「日にちと時刻はわかる?」
「5月1日……確か11時40分頃かと……」
「そんな時間に……歩道対象よ?」
「……塾が遅くなって……私だって9時には帰りたかったけど……色々してたらその時間に……」
最近の高校生にはよくあることだ。親はなにをしているのか。そんな時間で心配にならないのだろうか。
「そっか、塾……最近の高校生は大変ね」
ぽかんとした顔でこちらを見られた。
「ん……?どうしたの?」
「いや、そんな風に言ってくれる人、初めてだから……。みんな、大学受験ならそのくらい当然だって顔するの」
「大学受験……じゃああなた高校三年なのね。何歳?」
「18です。お姉さんと話しているとなんだか
ほっこりしてきますね」
ふふふ、と口元に手を当てて笑った。その様子が可愛らしい。
「よく言われる。冬ちゃんと年が近いからかもしれないね」
「お姉さん何歳ですか?」
「20歳(はたち)だよ。ね?2つしか変わらない」
「20歳で刑事さんやってるんですか?すごいですね……」
「中学、高校でがんばると、その分だけ上のところからスタートできるんだよ。だから私がんばったの」
ここまできて話がずれていることに気がついた。
「すごいですね……。私も、がんばろうかな」
「そ、そうだよ!がんばって!……で、話は戻るけど、どうしてその人を犯人かもって思ったの?」
「すごく焦っててでも……少し楽しそうで……
あ、この人、今あっちゃいけない人だ……!と思ってそこから逃げました」
「それは……懸命な判断ね」
「あ、服装は……ジーパンに白地の緑の靴紐のスニーカーとスカイブルーのジャンパーだったと思います。出入口だったので明かりでよく見えて……でも顔はよく見えなくて……あ、あ……」
その時何かあったのか少し震えている。
「大丈夫?ゆっくりでいいから、ね?」
「は、い……。その人……あ、おのジャンパーがわから、なく、なるくらい……っ服が、真っ赤で、それが、きっと、血だった……」
手の震えが強まり、汗と涙が滴る。