僕と桜井家
運命の出会い

出生

2014年7月7日。





僕は寂れた商店街の一角で産声をあげた。








5人の兄弟姉妹の中で一番優秀だった次男の僕は、生まれてすぐに父母と会話し、自分の置かれている状況を把握した。




父母は昔一族と共に鴨川に住んでいた。ところがある日、謎の伝染病、ハンテン病が一族を襲い、父母を遺して皆死んでしまった。お家断絶の危機である。




その危機を救ったのが、髭面のおじさん、シモベである。彼は父母をハンテン病から守るため、新しい住居を用意し、父母を隔離した。




父が言うには、昔々一族が大海の主として海を牛耳っていた頃、下僕だった彼の先祖に海で生きる知恵を授けてやったことに恩を感じての行動らしい。今なお、一族と彼との支配従属関係は続いているのだ。





彼は、種の保存のため父母を手厚く世話し、父母やその子らに食べ物を貢ぎ、こまめに住居の掃除をした。




その結果、2人だけだった一族は見事に再興した。生まれた子らは、一族の勢力を拡大するため、新天地を求めて旅立つのだという。









生まれてからおよそ1週間後、シモベが僕と兄弟姉妹の5人を新居に移した。




僕は思慮深く堅実な性格で、騒がしいだけの他の4人とは生理的に合わなかったから、シモベに何度も1人暮らしが良いと抗議した。しかし、シモベは僕の要望を無視し、その代わりに新居の壁に「!!00E¥」と書いた赤い紙を貼っていった。






当時、僕は幼すぎてその行動の意味を理解できなかったが、今思えばあれは、無視したことに対する、無口でシャイな彼なりの謝罪の手紙だったのかもしれない。



そうとは知らず、怒りに任せて転居後、食べ物を献上する度に彼の手に噛みついたことは、今でもすまないと思っている。








転居から1週間、僕は4人の兄弟姉妹と同居した。



兄は後に生まれたくせに知能の高い僕を妬み、「この世は弱肉強食だ!」と言いながら僕への貢ぎ物を度々奪った。







繊細な僕は、兄による強奪及び環境の変化のせいで、痩せ細ったうえ精神を病んでしまった。
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