根雪
思い
「だからいけないことだとわかっていても、連れ出したんですか?一緒に死ぬために。」
美知は何も答えず、溢れだした涙を拭おうともせず白い天井を見つめていた。
曽我は何も言わず、美知が辿ってきた過去を考えていた。
まだ幼い心と体につけられた無数の傷、暴行した男たちは今もおそらく大手を振って町中を歩いている。自分たちがつけた傷の痛みに苦しんでいる者がいるなど想像すらできない、人の皮を被った獣以下生き物だ。心の傷は見えないからこそ、その深さは心で推し量るしかない。しかし、人であるからこそ、互いの痛みを理解しようとする。それができないのは、人として与えられた心の使い方を知らない愚か者、あるいは気づかないふりをする臆病者だ、と曽我は思った。
美知が抱えた傷が呼びあうように二人を再会させ、ともに死ぬことを美知に選択させた。
曽我は思ったことを、言葉を選びながら言った。
「先生の思い、何も言い訳せずにあなたの前から消えた先生の思い、それはあなたの中にありますか?」