根雪
過去
美知が再び目を覚ました時、今度は白髪混じりの中年の男と若い男が立っていた。何度か瞬きをすると、また白い天井がはっきりと見えた。さっきと同じ天井、同じ蛍光灯、望まないのに、また目が覚めた。

「相田美知さん、気がついた?」
若い男が話しかけた。美知は天井を見上げたまま何も答えなかった。
「免許証と保険証から確認させてもらい
ました。東京の、看護師さんなんだね
?病院に連絡したら、四日前から連絡
が取れないって、心配して、警察に捜
索願出すところだったって。心配かけ
ちゃダメだよ。」
美知が無言でいるのを見て、中年の男が若い男に黙るよう合図を出した。
「私は北海道警の曽我です。そっちは藤
田、二人ともこれでも刑事です。少し
お話をうかがってもいいですか?」
優しく穏やかな声に、美知は小さく頷いた。
「あなたは生まれも東京でしょ?どうし
て今回は北海道に?一緒にいた島野さ
んが名寄のご出身だからですか?」
美知が頷いたのを見て、曽我は質問をつづけた。
「お医者さんの話だと、島野さんはおそ
らく病死、一応これから解剖があるん
ですが、それで間違いないだろうとの
ことでした。あなたの病院に入院され
てたんですよね?半年前に胃癌で余命
宣告を受けて、医療用麻薬で痛みをコ
ントロールされてたそうですが、急に
病院から姿を消して、一人で動ける体
ではないから事件にでも巻き込まれた
んじゃないかと、警察に通報したそう
です。さっき婦人警官が、島野さんが
あなたの元担任だと聞いたそうですが
、それは事実ですか?」
「はい、中学二年の時の担任の先生でし
た。」
「でも、島野さんの最後のお仕事は、確
か警備員ですが、教師は辞められてま
すね。」
曽我は美知の様子を見ながら、ゆっくりと慎重に質問を続けた。美知が意識を失っている間に、曽我の元には多くの情報が届いている。曽我は裏付けを取りながら、情報の補足をしているのだ。興奮させないよう気を配りながら、曽我は質問を続けた。
「島野さんが末期癌で、もう永くないか
ら、生まれ故郷に連れて来てあげたか
ったんですか?それとも、一緒に死の
うとでも思ったんですか?ガソリンは
まだ残っているのに、あなたはエンジ
ンを切りましたね?」
「ひとりぼっちの先生が、死ぬ時も一人
じゃ可哀想だから、先生がひとりぼっ
ちなのは私のせいだから。」


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