根雪

「救ってくれた、とは?」

美知は自らの過去を話し始めた。大きな傷を隠すよりも、島野への思いを話したい強い思いが美知にそうさせたのだ。

・・・中学に入ってすぐ、私はいじめのターゲットになった。母は父親の暴力がいやで、私を置いて出て行って・・・大人たちが噂をするから、友達だった子も私を変な目で見るようになって、無視されてるうちはまだよかった、だんだんエスカレートして、髪を切られたり閉じ込められたり、脇腹とか見えないところはあざだらけだった。
でも父親には言えなかった。だって、家でだって父親にぶたれてたし、中学生に逃げ場所なんかあるわけないのに、どこに行ったって優しい人なんかいなかった。

二年になって先生が担任になって、気づいてくれたんです。私がいじめられてるのを。初めての担任だったくせに、校長にかけあったりクラスで話し合ったり、保護者たちと話しあってくれたり、相変わらず無視されたりは続いたけど、寂しくなかった。学校に行けば先生に会えたから。
でも、いじめのことで父親が先生を責めて、校長やPTAにも責められて、先生が辞めさせられるかもしれないって聞いて、私、何にも考えられなくなって家出したんです。

家出して一日めは何とかなったけど、次の日は疲れて、とにかくどこでもいいから休みたくて、もうどうなってもいいやなんて考えて、知らない大学生のグループについていったんです。
四人にレイプされて・・・監禁されて・・・誰もいなくなった時に逃げ出して、でも行くところがなくて・・・ただ歩き回るしかなくて、もう死んじゃおうかなって考えてたら、先生が私を探してくれてた。見つけてくれて、家には帰りたくないって言ったら、自分のアパートに泊めてくれたんです。私のためにご飯を作ってくれたり、私をベッドに寝かせる代わりに、自分はキッチンの床に寝たりして。二日間だったけど、いろんな話をしてくれて、一生懸命料理してくれて、私、誰かが目の前にいてくれて、話してくれて、一緒にご飯食べられるってことがこんなに幸せなんだって気がついたんです。

先生のおかげで落ち着いて、でも父親が恐くて帰りたくなくて、先生、逃げてもどうにもならないことだからってついてきてくれた。送ってくれて、父親に話してくれて、でも、先生、私がされたこと何も話さないで、ただ私が帰りたがらないからって泊めたって、そう押し通したんです。
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