マリの毎日
しばらくすると何やらキッチンの方角から、ズドンズドンと低く響く音が聞こえてきました。
インド象の行進を想像させる鈍い音です。


「ぐうー……チョコ、切りにくいー」

「ちょっとマリ! 粗い!」

「うそー、じゃあどうしたらいいのおー?」


マリがチョコレートに包丁をたてていた音だったようですね。
恐ろしっ


「これぐらい細かく」

「うっそー、無理! 絶対無理ぃー! 自分、不器用ですから」


言ってる間にチョコレートはルイコ担当になったようです。マリが何を担当するのかは知りませんが。


(あの子本当に、結婚したら大丈夫なのかしら?)


ルイコの心配もごもっともですが、たぶんそれより先に結婚の心配したげた方が。


ズドンズドンがスタタタタタと軽快な音に変わり、真剣なルイコの背後で暇を持て余したマリがコサックダンスの練習をしていると、やがて作業は終わりました。


「ふう……終わった。これ、湯せんして」


ルイコはお湯の入ったボールと刻みチョコの入ったボールをマリに手渡しました。

そこまでやってあげた上で湯せんしてって指令は、お湯の入ったボールの上でチョコの入ったボールを数秒持っていてと言っているのと同じです。

究極の役立たず女、マリ。
ルイコの苦労が思われます。


「うわー! すぐ溶けるー! おもしろーい」

「そんなんではしゃがないの」


何だかルイコの突っ込みも相当テンションが落っこちてきました。
もう何ていうか、母親並みじゃないですか。


「あたし、包装紙探して来るから、そのカップにチョコ流し入れといてね」

「わかったー!」


ここでマリから目を離してしまったことが、ルイコの運の尽きでした。
ちょっと大袈裟ですけどね。
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