恋じゃなくてもイイですか?
「やにれ荘」はハルニレの曽祖父が、近くにある大学のために学生寮として建てた。
木造の2階建て、築50年の古い物件だ。
外観も時代を生きてきた貫禄がある。
跡継ぎがいないことと、少子化による大学の生徒数の減少。
それに、周囲の近代化によるマンションの増築などの理由で、ここ近年はほとんど空き家状態だったらしい。
ハルニレの祖父母も健在ではあるが、歳だし、引退したらしい。
都心に住む息子夫婦の孫のハルニレが、大学入学の際、こちらから通う方が便利だし、親類も近くにいて安心だし(祖父母の住む家はやにれ荘の後ろに建っているのだ)ということで、誰もいないこのやにれ荘に住み始めたのだった。
「住めば都」とはいうもので、当初、大学に通う4年間の約束で入居したものの、居心地が良く、ハルニレは大学を卒業した今でも、このやにれ荘に住み続けている。
そのおかげで、私もこうして、ここに住むことができるのだけれど。
美大を卒業したハルニレは、学生時代に応募した絵本作家の新人を発掘するコンテストで大賞を取り、新鋭の絵本作家として注目をされている。
フリーでイラストレーターとしての仕事もしているので、仕事をするのは主に家でだ。
なので、引っ越す必要がないのだ。
「ミーちゃん、どこに行ったのかなぁ・・・」
ハルニレがコーヒーをすすりながら、窓の外を眺めた。