恋じゃなくてもイイですか?


「ミーちゃん、ミーちゃーん。ごはんをあげますよー」


外に向かって叫んだ。ミーちゃんと言うのがその猫の名前らしい。ひとしきり叫んだ後、ふぅと息を吐いて、ハルニレくんはこちらを振り返る。


「おかしいですね。いつもだったら、呼んだらすぐに来るのに・・・」


「きっとハルニレくんの声の届かない所まで散歩に出てるんじゃない?猫って意外に行動範囲広いらしいし」


何かの本で読んだ知識をそのままハルニレくんに伝えると、「そうかもしれませんね」と微かに笑って、ガラス戸を閉めた。


自慢のペットを紹介できなかったのが、残念そうに見えた。


コーヒーを飲み終えると、今度は2階を案内してもらった。2階へと続く階段は玄関の前、一カ所のみで、一歩上る度にギシギシと怪しい音を立てる。


1階と同様に、手前から「3」「5」「6」「7」と番号が振り分けられた部屋が続いていた。


建物の北側には共同の洗面台が並び、その上にある窓から、午後の柔らかな日差しが降り注ぎ、廊下に影を落としてる。


「一応、掃除は済んでますので、好きな部屋を覗いてみて下さい」


うんと頷き、早速と一番手前「3号室」の扉を開く。


部屋に入った瞬間、畳の匂いがした。簡易キッチンと小さい冷蔵庫の付いた、6畳一間の和室。


一応、キッチンの部分は板間になっている。畳の部屋には裸電球がぶら下がり、収納に天袋付きの押入れとシンプルだ。南向きには窓には半畳程のスペースだけれど、ベランダも付いていた。ベランダも家同様、年季が入っているので、おそるおそる足を伸ばす。一歩を踏み出した途端、ギシギシと床が唸り、べキンと大きな音を立てた。


< 40 / 89 >

この作品をシェア

pagetop