恋じゃなくてもイイですか?


同棲を始めたのはいいが、その生活も1年ほどで終わりを告げた。


お互い話し合って、円満に別れを決めたのだと桐生くんは言っていたが、詳しい真相は誰も知らない。


彼女が出て行った後には、自分名義の広い部屋が残されたのだ。


そこに丁度いいタイミングで同居相手になったのが桐生くんの弟で、兄弟2人の同居生活はもちろん、上手くいっていたのだけれど、部屋の更新期限に丁度差し掛かるので、思い切って解約する決意をしたのだ。


事情はどうであれ、いつまでも元カノと一緒に住んでいた物件に住みたくないよね。


その気持ちはすごく解る。


「それでですね、桐生くんの身の周りのものは一時的に実家に送る事にしたらしいんですけど……」


言いづらそうにハルニレは上目使いに私を見る。


「ですけど……?」と私は首を傾げる。


「その……桐生くんからのお願いでですね……弟を新しい「やにれ荘」の住人にしてほしいと……」


「……桐生くんの弟を?」


びっくりしておうむ返しに訊き返してしまった。


はいとハルニレは頷き返す。


「弟さんも4月に上京したばっかりで、まだ新しい生活に慣れてない所もあるらしくて、自分の知り合い(ここ言うと僕ですね)が近くにいた方が安心できるらしいんです」


桐生くん、面倒見良さそうだもんなぁ。弟の事、心配で仕方ないんだね。過保護だなぁ。桐生くんみたいなお兄ちゃん、私が欲しかったよ。


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