恋じゃなくてもイイですか?
ある日曜の午後、桐生兄弟はやにれ荘を訪れた。
その日は朝方から、スコールのような雨が食堂のガラス戸を叩いていた。
お客さんを迎えるので、午前中は2人して張り切ってやにれ荘の掃除に取り組んだ。
お昼を済ませ、食堂のテーブルにハルニレと向かい合って食後のコーヒーを飲んでいると、「ピンポーン」と乾いたチャイム音が廊下に響いた。
「来た」とつい耳が反応してしまう。
やにれ荘の3人目の住人、一体どんな男の子なんだろう?と期待が膨らむ。向かいに座るハルニレも同じ気持ちでいるのか、期待と緊張に満ちた表情をしている。
「はーい、今行きます」と玄関に向かって答えると席を立ち、食堂を後にする。
私も居ても立っても居られなくなり、ハルニレの背中を追う。
ガラガラと勢い良く、旅館のようなやにれ荘の玄関の引き戸を開きながら、ハルニレは「いらっしゃい」とお日様みたいな笑顔を向ける。
「やぁ、急に訪ねて悪かったね」
いつもの飄々とした表情の桐生くんがそこに立っていた。
「奏ちゃんもおひさ~」
片手を振りながら、廊下に立つ私に声を掛けるその笑顔に少しホッとする。
穏やかな表情をした兄の隣に、無表情な弟がつっ立っていた。