恋じゃなくてもイイですか?
「あ、いけない。そろそろ出ないと」
ふとテレビの上の壁時計を確認して、慌てて残りのトーストをカフェオレで流し込んだ。
長椅子に置いてあったカバンを持ち、立ち上がる。
「ミーちゃん、歯磨きは?」
「今朝はゆっくりしすぎたみたい。会社で磨くよ。ハルニレくん、ゴメン、洗い物よろしく」
パタパタと騒がしく食堂を後にすると、コーヒーのカップを持ったまま、ハルニレが玄関まで見送りに来てくれた。
「いってらっしゃい」
食堂へと続く扉の柱に寄り掛かり、小さく右手を振る。
「行ってきます」
通勤用のパンプスを履いて立ち上がる。
朝の始まり。
ガラガラと老舗旅館のような、半分に曇りガラスがはまった引き戸を、勢いよく開ける。
まだ5月なのに、夏日のような日差しが降り注いでいる。
石畳の先に続くブロック塀。
玄関前の軒下に置いてある自転車に跨り、風を受けて坂道を下る。