恋じゃなくてもイイですか?


「せっかく訪ねて来てくれたのに、あいにくのお天気で。濡れてませんか?さ、どうぞ、中に入って下さい」


便サン(トイレ等で履く、茶色いサンダルの略)を突っかけながら、玄関の中へとハルニレは2人を促す。


桐生くんはビニール傘についた水滴を振り払うと、丁寧に巻いて畳み、下駄箱の隣に設置されている傘立てに入れる。


「お前も……」と桐生くんは隣に佇む弟に声を掛けた。


「はるにれ、奏ちゃん、こちら俺の弟で遥(はるか)って言うの。女みたいな名前だけど、れっきとした男だから」


桐生くんは冗談交じりに、弟を紹介する。じっと隣に立つ弟を眺める。


身長はお兄さんである桐生くんと同じくらいで、細身でひょろりとしている。


切れ長の目に鼻が高く、「王子様」と例えられるお兄さんとよく似ていた。


違う点と言えば、お兄さんがいつも笑みを絶やさずニコニコしているのと対照的に、口を結んだまま一言も話さず、不機嫌そうに、じっとどこか一点を眺めていた。


弟が「静」だとしたら兄は「動」


弟が「ツン」だとしたら兄は「デレ」


まさに正反対の兄弟だ。


一見でそんな印象を受けた。


「噂には聞いていましたが、桐生くんによく似ていますね。顔も背格好も。一卵性双生児かと思う位です」


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