恋じゃなくてもイイですか?
相変わらず、満面の笑みで、ハルニレは2人に話し掛ける。
来客用のスリッパを2足分、廊下に並べた。
「何故かよく双子に間違えられるんだよね。5つも離れるのにさぁ……兄弟ってそんなものなのかなぁ」
ハルニレの意見に首を傾げながら、何度もやにれ荘に遊びに来ていて、勝手を知る桐生くんはスリッパを履くと、「来て早々悪いけど、ちょっとトイレ借りるよ」と一足先に廊下を進んで行った。
「初めましてですね。田中はるにれと言います。この「やにれ荘」の管理人と言った所でしょうか?こちらは3号室にお住まいの同居人、本宮奏多さん、通称、奏ちゃんです。まずは、食堂を案内しましょうか?丁度、コーヒーの途中だったんです。桐生くんたちの分もせっかくだから淹れましょう。遥くんはコーヒーは飲めますか?」
声無くこくりと頷く。
「それは良かった。それでは、準備をしましょう。さぁ、遠慮せずに上がって下さい」
ハルニレはコーヒーを淹れるため、いそいそと食堂に向かう。遥くんは、ハルニレの後ろ姿を眺めながら、やっとこさ、靴を脱いだ。
自分の分と、兄の分、玄関に並んだスニーカーを入り口側につま先を向けて揃えた。
そんな様子を見て、私だったら自発的に出来ないなと感心する。
ちょっと冷たい感じはあるけれど、お行儀のいい子なんだ。
「私、本宮奏多です。よろしくね」
彼が振り向いた所で、にっこりと微笑み、挨拶に握手をしようと右手を差し出した。
チラリと遥くんが私を一瞥したのが解った。差し出した右手は握り返される事なく、そのまま空を掴んだ。