たゆたうたたか。
1.
今日もとても天気の良い朝が来て。
いつものように蓮を見送って。
後片付けをして洗濯機を回して。
そんなことをしていたら、リビングのドアがゆっくりと開いた。
「さく姉、おはよ?」
「....おはよう。」
分かっていた。声だけで、いや。
もう雰囲気で。
楓君は相変わらず甘いココアの香りを振りまいているかのように私にそっと近付いてきて、微笑む。
「あれ?おはようのキスは?」
「....もうそういうことはしないって決めたの」
「またまたー!この前あんなに気持ち良いって顔してたクセに....」
「蓮がいるから!もう決めたの!」
しんと静まり返るリビング。
ムキになって出してしまった自分の大声が朝から響き渡って消える。
洗い物の汚れを落とす水の音だけが残る。
「ふーん?じゃあ、これでも?」
「....!」
急に顔を近付けてきて、顎を掴まれる。
目の前まで唇が来てる。でも、触れない。
「ほら....もう少し近寄って来てくれれば、触れるよ」
「....あ、」
甘い、ココアの香り。
駄目だ。やっぱりこれは媚薬だ。