たゆたうたたか。
1.
桜が舞い散る中、大きなカバンを持って私は今まで住んでいた部屋にさよならを告げた。
「着いたあぁーっ!」
1kのとても小さくて狭い部屋だったけれど、住み心地は良かった。
夏なんかは暑過ぎて過ごせないこれまた狭いロフトだって冬になれば隠れ家みたいで。キッチンも洗面所も何もかも本当に狭かったけれど、収納術が身についたし良かったかも。なんて今ならプラス思考に考えられちゃう。
それはきっと今日から始まる大好きな大好きな婚約者の彼との同居生活が待ち構えているからでしょう!なんて神様から指摘されそうなくらいの、私の浮かれっぷり。
お気に入りのミニスカート。
新しく買ったフワフワのフリルシャツ。
おっきなカバンは不格好かも。でも彼との旅行の時にお揃いで買ったキーホルダー付き。素敵。
鼻歌を歌いながら携帯を手に取り彼に連絡。送信。あ、車で迎えに来てくれるんだ!ラッキー!浮かれたひとりごと。
最近はLINEなんて便利な物が使えるようになったものだ。おかげさまでルーズだった彼とも連絡がいっぱい取れるようになった。はぁ。幸せを感じる。
「浮かれすぎだろ」
「うおっ!?」
急に頬に冷たい感触。ペットボトル?
あ、甘い匂い。アドレナリン。
後ろを振り返ると、やっぱりか。
大好きな大好きな彼。婚約者の、蓮。
黒髪の短髪にピアスをいくつかつけている彼は、とても魅力的でクール。
そしてその鋭い目付きで微笑みかけられるのが私はとても、弱い。