たゆたうたたか。


....いや、でもやっぱり駄目!
瞬間、蓮の優しい笑顔と言葉を思い出す。


「っ、やっ、やめてっ」


正気に戻り、すぐに楓くんを押し返す。
すると両腕をあっけなく片手で掴まれて固定される。
凄い力。か弱そうに見えるのに。


「....少し黙って?」


「あ....ご、ごめんなさい」


あれ?私、どうして謝ってるの?
なんだろ。もう、わけわかんない....。


乱暴な態度にも何故か鼓動は鳴り止まない。
それどころか、次第にどんどんと音を立てるスピードは増すばかりで。


「ありがと、さく姉。だいすき。」


あ、笑った。楓くん、笑ってくれた....。


自分でもこれがいけないことだって。
おかしなことだって分かってはいたんだけれど。
楓くんの前だと何にも考えられなくなってた。
大切な蓮のことを裏切っている罪悪感すら、もうすっかりと忘れていた。


そのまま、目を閉じて。
私はココアの香りをまた味わった。


あぁ。私はまた、後悔をするのだろう。
そしてきっとまた、同じことを繰り返すのだろう。
< 89 / 109 >

この作品をシェア

pagetop