ブルーローズ
「あ、ミッチー出ておいてくれる?」

ちぃさんは立ち上がり、さっさとレストルームの方へ歩いていった。

私はこのだだっ広いリビングを突っ切って、くるみ色のドアを開けた。


「あれっ、佐竹さん。 どうしたんです?」

ドアの前に立つ佐竹氏は、涼しい顔をして片手を挙げた。

「ちぃさんに用事」と言い掛けたその時、佐竹さんの脇からニュッと手が伸びて来て、ドアを全開に開けられた。

「無防備過ぎでしょ、美知佳さん。こんな時間に確めないでキー開けちゃうなんて」

「ハル……なんで」

何故、何、どうして。

私のびっくり顔を見て、最強の笑みを漏らすハル。


「遅いわよ。ちゃんと仕事出来たんでしょうね?」

私の背中にちぃさんの不機嫌な声が当たった。

「あれっちぃさん? 何、その荷物」

「んふふ、私は別の部屋に移動しまぁす。それじゃあ明日迎えに来るから、それまでごゆっくり。ほら、佐竹はこれもって」

ちぃさんは当たり前のように、佐竹氏に自分のスーツバッグを押し付ける。

「え、え? ちぃさん?」

「私からの少し早い誕生日プレゼント。今はこのくらいで、我慢してね」

陽希の腕の中へ私の体をトンと押した彼女は「陽希、貸しイチよ。明日から馬車馬のように働いて返して貰うわ」と不敵に笑った。

ちぃさんは佐竹氏の腕に手を絡ませ、部屋を出て行く。それは自然に。

ん? ちぃさんと佐竹さん?

「えぇーっ?!」

閉まりかけたドアに向かって叫んだ私は、相当鈍いのか。
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