ブルーローズ
きっと凄く情けの無い表情をしていたんだろう。

陽希は両膝を立てて私の顔を覗き込む。

「怒ってくれないと謝りづらいし……美知佳さん溜めちゃうでしょ」

そう言いながら私の胸の真ん中をチョイチョイと突いた。

ちぃさんも、ちゃんと怒れって言ってたっけ。

物分かり良い女のフリなんかするなってことだよね。

私は大きく息を吐く。それと一緒に自分の想いも吐き出そう。

「温泉……。ハルと行きたかった」

「うん、ごめんね」

「一緒に美味しい物食べて、お風呂入って、ゆっくりするつもりだったのに」

「うん、ごめん」

陽希はそっと私の腿に首を垂れる。

私は柔らかい陽希の髪を何度も梳いた。

「週刊誌の記事なんて気にするつもりなかったのにモヤッとした。今の話しならそんなのハルじゃないって思えるのに……」

「昔の俺も俺だし、被害者ヅラするつもりないよ」

陽希の言葉は真っ直ぐで揺るがない。でも、どこか苦しそう。

「ハルのバカ。そんな悟った言い方しないで」

「うん、ごめんね。……でも俺には美知佳さんしかいないから」

陽希が私の腰に手を回して力一杯抱き締めるものだから、いつも彼が私にくれるような優しいキスを彼の頭のてっぺんに降らせた。

「反則技だよ、美知佳さん」

困ったように微笑む陽希は、ご主人様から注意を受けた哀しそうなワンコに見える。
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