あの日、君に伝えたかった
「じゃあ、あなたの顔を見せてくれる?」
「・・・良いですよ、メイさん」
ふっと笑い声がした後、遠くにポーッと小さなオレンジ色の灯が見えた。
この暗い部屋を夜と表すならば、あの灯は太陽だろう。
現れたのは、蝋燭(ろうそく)と、黒髪の少年だった。
丁寧にセットされた黒髪。
真面目そうな銀縁眼鏡。
眼鏡の奥の、小さくて丸い瞳。
多分、年齢は私と変わらないだろう。
笑みを顔に貼りつけた彼は、蝋燭を持ちながら、私を見降ろしている。
蝋燭を持たない方の手には、高そうな装飾品が付いた銀色の腕輪をしていた。
彼を見ていると、あの日を思い出す。
「・・・夜斗(よると)。夜斗はどう?」
「さすがメイさんですね。
ありがとうございます、気に入りました」
「夜斗、ここはどこ?
どうして私はここにいるの?
どうしてあなたは、私の名前を知っているの?」
「槇野芽衣(まきの・めい)さん。
ボクはあなたのことなら、何でも知っております。
誕生日も、好きな食べ物も、嫌いな食べ物も。
あなたのお悩みも、全て」
お悩み、と言う言葉に、思わずドキンッとする。
そんな・・・きっと、知ったかぶりよ。
知っているはずないわ。