あの日、君に伝えたかった
その日も私は防犯ブザーと傘を握りしめながら、家へと向かっていた。
確かその日は夜遅くまで先生に勉強を教わっていたから、帰るのがかなり遅くなったのだ。
しかも、台風が接近していたため、強い風と雨が降っていた。
それなのに、両親は迎えに来ない。
電話しても、仕事だと言われるだけ。
わかっていたので、私は電話もせずに1人で歩いていた。
前に両親へ遅くなったから来てほしいとお願いしたところ、アッサリ仕事だからと切られたことがあったのだ。
その時、私は言いようのない悲しみに襲われた。
もう二度と悲しい思いをしたくないから、私は1人で帰る。
灯がポツポツしかない通りを、小学3年生の私が通る。
誘拐されても可笑しくない。
「・・・もしここで私が誘拐されたなら、パパもママも心配してくれるかな?」
私は独り言を呟くも、小さな願い事は消え去った。
学校から家まで遠く、やっと半分ぐらいまで来たかな?と思った時、私はその存在に気が付いた。
この間閉店した店と店の間の狭い路地。
人が1人通れるかどうかの狭さの道に、人がいたのだ。
私は驚いたが、声をかけた。
「大丈夫?」
道に入ることは不可能に近かったので、私は道の入り口から声をかけた。