あの日、君に伝えたかった
その人はじっと私の方を見ていたが、やがてゆっくり立ち上がった。
そして、私の方へと近寄ってくれた。
近くなったから、顔が見えた。
その人は、私と同い年ぐらいの男の子だった。
ただ、顔は痣が多く、腫れている。
服もシミだらけで、所々切れている。
手足には血が滲み、思わず後ずさりした。
でも、私は再び近寄り、パンを渡した。
しかしこんな所にいては、パンが雨に濡れてしまう。
私は彼の手を引き、屋根があるところまで案内した。
本当は家に連れて行きたかったけど、綺麗好きの両親が許すはずない。
私はすでに今日の営業を終えた煙草屋さんの所の屋根の下に来た。
赤と白のカラフルな屋根が、雨風をしのげる。
運良く椅子が2脚あったから、腰かけた。
彼も私の真似をして腰かけた。
彼は無言でパンの袋を開け、黙々と食べていた。
毎朝消えゆく希望のために買って、鳩の餌と化していたパン。
それが役に立つなんて。
「美味しい?」
私が訪ねると、彼は小さくうなずいた。