あの日、君に伝えたかった
★夜斗side★
ボクには、本当に名前がなかった。
呼ばれる時は、常に「おい」。
名字も名前も、字さえも知らなかった。
ボクは世間から邪魔者扱いされたであろう人からうまれた。
父親と呼ぶ人物は、巷で話題の連続殺人鬼。
母親と呼ぶ人物は、同じく巷で話題の結婚詐欺師。
2人に関わると死ぬと噂されていたほど。
でも幼いボクは、そんなこと知らない。
両親はボクが世間から非難されることを恐れ、ボクの存在を隠し続けた。
戸籍なんて存在しない。
外へは一歩も出たことがない。
「あんたのことは、オレたちが守るからな」
「生きてね?」
言葉を知らないボクは、ただうなずくだけ。
2人はボクを家に閉じ込めたまま、“仕事”に出かけた。
仕事の内容を知らないボクは、ただ家で待っていた。
ひたすら、待っていた。
「にしても良かったよねー。
あの殺人鬼捕まってさ」
「確かに。
あと結婚詐欺師もね」
外から聞こえた話し声。
まさか逮捕された人物が、自分の両親だとは思うまい。