擬態化同盟 ~教師と生徒の秘密事~
「先生も話してよ。何でコスプレ好きなの?」
すんなりと話し始めてしまったのは、結城君が本音を話してくれたから、それに応えようと思ったからかもしれない。
「中学生の時、1つ上のバスケ部の先輩が好きだったの。先輩も私の事を気になってるって教えてくれた人がいたから私、成功を確信して告白した」
もう10年も前の話なのに、今でも鮮明に思い出される。
その日の天気や感じた音や匂いすらも鮮明で、忘れたいと思っても忘れられない事に何度苛立ったことか。
「先輩は私の事なんて好きじゃなかった。私の事を気になってるって教えてくれた人はからかっただけ。本当に告白するとは思わなかったって」
あの時の恥ずかしさといったらなかった。
先輩の顔を見られなくなったし、私が振られたことを知っている人もいたけど、それが誰も彼も知っているかのように思えて、出来るだけ隠れてひっそりと学校生活を送った。
「そういうのを見兼ねて、皐月が誘ってくれたのがコスプレ。自分じゃない、誰かになりきるのって楽しいよ、って」
そんな言葉に惹かれてやってみたら、嫌いな自分が別人みたいになってて、その時だけはその別人になりきれた。
そのキャラクターが強ければ、自分も強くなった気になれる。
「これはね、逃げるために始めたことなの。真剣に取り組んでるんじゃなくて、やめたら、自分がどうなるのか怖いだけ」
本当の自分は、酷く弱くてちっぽけな存在だということを認めるのが怖い。