擬態化同盟 ~教師と生徒の秘密事~
「ほ、本当に、待って。まずは、放そうか」
「無理」
何で無理?何で?
結城君から離れようとすると、それを阻止する力がさらに加わって結城君の胸に押し戻される。
「結城君・・・」
「ん?」
「本当に、困るよ」
「いんじゃない?困れば」
困ってる。私は本当に困ってる。
それなのに、鼓動がどくん、どくん、と波打って、私の体ごと揺り動かそうとする。
「良くないよ」
「何で?」
「だって、結城君は私の生徒だもの」
「知ってるけど」
「だったら、こういうのはいけないことってわかるよね」
ダメだ。流されちゃ、ダメ。
冷静になって、何でも無いかのようにゆっくりと、ゆっくりと、結城君を宥めよう。
「わかんない」
「わかってよ」
「ヤダ」
「怒るよ」
「うん」
うん、って何なの。
結城君は私の頭をポンポンと子供をあやすように撫でる。
とっくに昔の事になっているのに、そうしてもらえると何だか辛い記憶も溶けていくようにも感じて、少しの間そうしていることにダメだと思いつつも心地良ささえ感じてしまっていた。