擬態化同盟 ~教師と生徒の秘密事~
「挟まったの?服」
佐久間先輩に見つかってしまい、「はい」と小さく答えて俯いた。
恥ずかし過ぎる。早くドア開いてっ。
そう祈っていると、先輩の体が私のすぐ隣に移動し、私の頭が先輩の肩に触れ、腕同士も度々当たる。
「んー、これは開かないと無理かもな」
私のカーディガンを救出してくれようとしたみたいだけど、私の頭は真っ白で、息も止めて硬直した状態で立っていた。
「もうすぐ止まるから、我慢しとけ?」
「は、はい」
こくこく、と頷くと佐久間先輩は私の隣で同じようにドアに背中を預けた。
「芹沢って、今何してんの?」
「高校で、数学を教えてます」
「マジ?すっげえ。・・・そっか、頭良かったもんなー、芹沢」
目を丸め、大きな口に笑みを浮かべながら発する言葉はいつも素直で正直な反応しかない。
「先輩はどうしてるんですか?」
「俺は普通にサラリーマン。営業成績取るのに毎日ヒイヒイ言ってんの」
そうは言ったけど、先輩が営業と言うのはとてもしっくりくる感じがした。
先輩の周りにはいつも友達がいたし、先輩が周りの人達を笑わせて、先輩の周りはいつでも楽しそうな声で賑わっていた。
バスケ部の部長もやっていたし、後輩にも慕われて、無意識に人との距離感を感じ取って、心の内に入り込むのが上手い人だった。
だから、先輩のことが好きだと言う女の子は多かったし、いつの間にか私もその中の1人になっていたわけだ。