擬態化同盟 ~教師と生徒の秘密事~
教師と生徒の矛盾
「何よー、その少女漫画的展開っ!」
仕事帰りのおじさんサラリーマンが集う、ざわついた居酒屋。
皐月はあたりめを口に咥えながら、身を乗り出してきた。
残念ながら、今の皐月の姿からは少女漫画的要素は一切感じられない。
「こんな偶然ってあるんだな、って思った」
佐久間さんと再開した話を皐月に聞いてもらい、中ジョッキをこくり、と一口。
なんだか、佐久間さんの話をしただけで自分の女子力がわずかに上がった気がした。
壁には大漁旗が掲げられて、奥の席では会社の親睦会か、踊り始めたおじさんもいる。
淡い恋の思い出を語るには、ムードも何もあったもんじゃないけれど、他の客の話になんか興味の無い、この空間は今の私にはちょうどいい。
「それで?次はいつ行くって?」
「それが、まだ連絡してなくて」
「何で!?」
「文化祭の準備とかで、最近忙しいし」
「ここで私と飲んでるのにー?」
「・・・。忙しいのは、ほんと。けど」
「けど?」
中ジョッキを両手で掴んで、ちびちびとビールを飲みながら躊躇っていると、皐月が「おじさーん!日本酒、冷でー!」と手を挙げて叫んだ。
種類を訊かれて、皐月が迷わず答えたのはフルーティな味わいで飲みやすいけど、気づかずに泥酔しているという恐怖のお酒。
「いきなりっ!?」
「焦らしたりするからでしょー」
「だってね、だってよ?皐月は忘れたかもしれないけど、私って先輩にフラれたじゃない?」
「ああ、そのこと・・・。忘れては無いよ。雅、相当落ち込んでたの知ってるもん」
過去の事とは言え、失恋したばかりの中学生の私を思い出すと、胸の辺りが苦しくなる。
飽きもせずに泣いてばかりいた私の側にいてくれたのは、皐月だった。