擬態化同盟 ~教師と生徒の秘密事~


映画が終わって、外に出てみると、既に陽が沈んでいた。

映画の感想を言い合いながら、店までの距離を歩き始める。

「佐久間さん、ちょっと鼻すすってました?」

「・・・くっそ、バレたか」

佐久間さんは照れ臭そうに、苦笑交じりに笑う。

「涙もろいんだよな、男のくせして」

「あ・・・」

「何?」

「思い出しました」

「ん?」


私が1年生の時の、中体連。

私達の中学はベスト8を賭けた試合に、たったの1ゴール差で負けた。

3年生にとっては、最後の試合。

3年生の先輩達は悔しさを噛み締めながら、声を押し殺して泣いていた。

「2年生だった佐久間さんが、先輩の誰よりも泣いてたな、って」

「なんっで、そんなこと覚えてんだよ・・・っ!!」

「印象的だったので」

いつでも得意気に、軽やかに、相手を抜き去っていく姿からは想像できなかった。


そうか。

人一倍泣いていた先輩は、人一倍、泥臭く地道な努力をしていたんだ。

だから、誰も「何でお前が泣くんだよ」って言わなかったんだ。


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