擬態化同盟 ~教師と生徒の秘密事~
料理が運ばれて来たことで、時が止まっていなかったことを知り、周りの活動が見える様になった。
料理がテーブルに並ぶのを待って、佐久間さんは「食べよう」と促した。
「返事はすぐにくれなくてもいい。ゆっくり、考えてよ」
佐久間さんは料理に手を付けながら、呆然としている私を見てクスッと笑って、「食べないの?」と私の前に並んだ料理を指差した。
佐久間さんが言ってくれた言葉が嬉しくて、何度も頭の中で繰り返していた。
「私・・・」
入り口が騒がしくなったかと思うと、ピンクや緑の頭をして派手な服装に身を包んだ女子3人が来店して来た。
アニメのキャラクターに扮している彼女らの登場によって店内の雰囲気が白けていく気がした。
「そういえば、ハロウィンだったね」
佐久間さんは小声で私に話しかけると、彼女達に視線を向けながら苦笑した。
「ああいうの、ちょっとイタイと思っちゃうな。歳もちょっと俺らより上だよね」
彼女達の衣装はきっと手作りでクオリティー高いな、とチラチラ見ていたのだが、佐久間さんの言葉に凍りついてしまった。
「・・・引き、ますよね、やっぱり」
「まぁ、俺は苦手かな」
それが、世間一般的な捉え方なのかもしれない。
彼女達が入ってきた時に一変した店内の空気。
この場で完全に浮いているからだろうけど、迷惑そうな視線をチラチラ向けるお客さん。
私のことを立ち直らせてくれた大事な物は、佐久間さんにはきっと受け入れてもらえない。
そんなきっかけを作ったのも佐久間さんだというのに、と恨みがましいことを一瞬思って慌てて振り払う。