擬態化同盟 ~教師と生徒の秘密事~
「な、に、して・・・?」
辿々しい言葉を発しながら、目には不安が映っている。
「2人で、ここで、何をしてたの・・・」
「僕の携帯を一緒に探してもらってた」
口を開いたまま、固まっていた私の後ろから結城君がごく自然な口調で言う。
「携帯・・・?理科準備室なんかに、どうして?」
「化学の授業前に先生に捕まって、器具運びを手伝わされたんだよ。その時にきっと、落としたんだろうね」
「何で、雅ちゃんと・・・?」
「急いでたから、手伝ってもらおうと思って。通り掛かりを呼び止めただけだよ。香苗は、どうしたの?」
「ノート、忘れて・・・」
「そう。見つかった?」
「うん」
「携帯も見つかったことだし、クラスに戻ります。ありがとうございました、芹沢先生。香苗も、戻るんだろ?」
「うん」
「それじゃあ」
結城君が会釈をすると、柏木さんもつられてぎこちない会釈をした。
理科室のドアが閉められると、その場に私はへたり込んだ。
どうなんだろう・・・。
柏木さんは、結城君の言葉を信じたんだろうか?
信じていなくて、不信感を持っていたら・・・?
しっかりしろ。
揺らぐからいけないんだ。
結城君は生徒で、私は教師。
決して交わることのない平行線、だ。