擬態化同盟 ~教師と生徒の秘密事~
病み上がりだというのに、結城君は朝の時よりも元気を取り戻していて、私に座っているよう言って今はキッチンでコーヒーを淹れている。
私がふわふわと幸福感と罪悪感の狭間で揺れているのを見透かされているのかもしれず、なんとなく結城君が優雅にコーヒーを淹れる姿を眺めていた。
「俺、大学行くね」
湯気が立つマグカップを私の前に置くと、結城君は私に肩をくっつけて横に座った。
「ほんと?」
「うん。俺が卒業したら先生との事はバレても問題ないかもしれないけど、俺が大学に行かなかった理由を先生の責任にされるかもしれないなぁって思って」
「そんな事まで考えてくれるんだね」
「先生が俺のせいで先生をやり難くなるのは嫌だからね。早く自立したいけど、先生を守る為には大学行く方が最善かなって」
「そっか。安心した」
安堵の息を漏らすと、結城君はふっと柔らかく笑う。
「俺の事、そんなに心配したの?」
「するよ。自暴自棄になってるんじゃないかと思った」
「だって、先生がひっどいこと言うからさぁ」
「それは、ごめんなさい」
「あれは傷付いたなぁ」
「本当に・・・」
もう一度謝ろうとして、結城君に口を塞がれる。
「これでチャラにしてあげる」
不意をつかれて固まっていると、結城君が笑う。
「さっきあんだけしたのに、まだ慣れないの?」
「そ、そういうこと言わないでっ」
眉根を寄せて結城君を睨むも何の効力も無くて、可笑しそうに結城君は笑うだけだった。