擬態化同盟 ~教師と生徒の秘密事~


「せめて、私の前では何も隠さないで」

結城君は箸を止めて私を見つめる。

「私の前では無理にいい子でいなくてもいい。結城君のしたいようにしてほしい。待避所、みたいな存在として思ってくれればいい。・・・結城君が必要としているならの話だけど」

自分で言っていて、大層な事を言ってしまったかもな、と思った。

私が結城君の1番の理解者にでもなれるかのように。

結城君は深い息を吐き、額に右手を当てて下を向く。

「先生って、ほんと・・・」

後に続く言葉は聞こえてこず、語尾がわずかに震えているように思った。

「結城君・・・?」

「ありがと」

素直な言葉に少し驚いて、顔を上げない結城君の横に座り直して頭を撫でてみる。

「子供じゃないんだからさ・・・」

「何となく」

私も前に結城君に頭を撫でてもらって、心のわだかまりが溶けていくような心地良さを感じたから。

「先生」

結城君の長い腕が私の体を包み込む。

「そんなこと言うと、先生のこと一生離さないけど」

思いのほか弱い声色に少し戸惑いを感じて、私はわざと明るい声を出す。

「離す気もあったってこと?」

「無いよ」

「じゃあ、いいじゃない」

結城君が小さく笑う。

「先生、開き直ったよね」

「そうじゃないと、生徒と付き合ってられないってわかったもの」

「それは、賢明な判断で」

本当に信じられないけど、覚悟を決めてからは、逆に肝が座って迷いが無くなった気がする。

ずっと、この手を離したくないと思ってしまったから。



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