擬態化同盟 ~教師と生徒の秘密事~
結城君は危なげなく難関校に合格し、他の3年生もそれぞれの進路を決めた。
卒業式は穏やかな風が吹く晴天の下で行われた。
3年生の担任が一人一人クラスメイトの名前を読み上げる。
最後に読み上げる一人一人の名前には、きっと担任教師の思いが込められ、様々な記憶が思い出されることだろう。
浪川先生は途中から涙ぐみながら、声が震えるのを懸命に堪えていた。
「結城 肇」
「はい」
浪川先生のクラスでは最後の名前だからか、浪川先生の声に一層力が入った。
BGMが穏やかに響く体育館の中で、結城君が姿勢良く前に向かって行く姿を目で追っていると、私まで涙が出そうになった。
唇を噛んで目に力を入れて、涙は何とか堪えておく。
全ての生徒が卒業証書を受け取ると、卒業生代表として結城君が前に立つ。
明朗で快活に3年間の思い出や在校生への思いを完璧に暗唱した言葉で連ねる。
卒業生や在校生からは鼻をすするような音も聞こえるし、教師達は頷きながら安心感のある結城君の言葉に聞き入っていた。
彼は本当に学校内の全ての人から慕われていたのだとわかる体育館の雰囲気だった。
結城君が一礼をすると、大きな拍手が響いた。