擬態化同盟 ~教師と生徒の秘密事~



「僕は結城みたいな生徒がうちの学校にいることが嬉しいですけどね」

化学を教えている浪川先生が後ろの席から美原先生と同じように結城君が出て行った方向を眺めていた。

浪川先生は2-A組のクラスの担任で、私はその副担任を担っている。

野球部の顧問をしていて、頭は常に爽やかな短髪。

生徒指導も担当しているので、注意する時の浪川先生の言葉尻は鋭いが、何故いけないのか、ということを時間をかけて教えている場面を見たことがあった。

やんちゃしている生徒にとって、浪川先生は鬱陶しい存在でしか無いらしいけど、浪川先生のような人格者に出会えたことは生徒達にとっていつかプラスに働くだろうな、と思っている。

その証拠に、生徒が先生を頼って来て、熱心に相談に乗っているという話も良く耳にした。

「常に学年トップで生徒会長もしっかりとこなしている。おまけに真面目で統率力もあって、人当たりもいいときた。生徒達からの信頼も厚いですよ」

生徒達からもそうだけど、教師からの信頼も厚く、「結城に任せておけば安心だ」と教師の方が結城君に頼っている節もある。

結城君が前に立つだけで場の空気が引き締まるところがあり、どうにか見習えないものかと鑑みた。

眼鏡でもつけたら印象が変わるんじゃないかと思いながら伊達眼鏡購入を本気で考えた。


< 5 / 266 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop