擬態化同盟 ~教師と生徒の秘密事~
荷物の運搬を終え、車を見送った後に私達はそれぞれ帰路についた。
柏木さんは自分の泣き腫らした目を気にも留めていないかのように、いつもの如く元気に大きく手を振りながら「また学校でー!」と帰って行った。
2人でそれに返事を返し、取り残されると、結城君は優等生な生徒会長の擬態を脱ぐ。
「そうだ。ねぇ、先生?」
擬態化していない場合、自然と私は身構えるようになっている。
「何?」
多分、その場合の結城君に苦手意識が植えついてしまっているんだと思う。
何を言い出すかわからないし、私をからかってリアクションを窺って楽しんでいるようにしか思えない。
「実験の結果報告しとこうかと思って」
何のことだ?と考えて、記憶を巡らせ、思い出した。
結城君は私が感情で動きたくなることに対して、自分で証明すると言っていた。
「感情で動くのは、やっぱり不効率だったよ」
でも、結局はそこに行き着いてしまったのか。
汗を流して私の前を走って行く結城君の姿は一生懸命で、輝いているように見えたのに。
「ただ・・・悪くはなかった、かな」
呟くようにボソリ、とした声。
結城君は顔を隠すように背中を向け、「じゃ、先行くから」と駅に向かって歩き出した。
照れ臭いのか、答えは疑問形で曖昧だった。
でも、私にはそれで充分だ。
教師を目指して良かった。
「全く・・・、今日は慰められっぱなしだ」
オレンジの空と同じ色に染まった結城君の背中を見送りながら、口元が緩んだ。