近くにいた王子


その時、

“啓太”が俺に気付いた。

目が合って、思わずビクッとしてしまった。


“啓太”の視線に気付いたアユも、俺を見る。


「あっ、こいつね、従兄弟の光。ここまで案内してもらったの」


アユが俺を紹介すると、“啓太”はニコッと笑った。


「冴木啓太です。服借りてたみたいで、助かったよ。ありがとう」

「いえ………」


礼儀のいいそいつを、嫌いになんてなれなかった。

アユを取られたっていう悲しみを、ぶつける場所を無くした気がした。


こいつが最悪なやつなら、アユを奪うことだってできたかもしれないのに。

こんな嫌味のないやつから、奪うなんてできねぇよ…




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