手拭い村の奇祭
 不思議だよね。
 何の経験もない中学生が、こんな場面で落ち着いていられる。

 多分、鬼切丸のお陰だ。
 それと、佐馬ノ介の言う、僕の中に流れる血のお陰か。

 今ここで鬼と対峙しているのは、渡辺 宗士じゃない。
 その昔、橋の上で鬼の腕を斬り落とした、渡辺 綱だ。

「加勢するぞ」

 佐馬ノ介の声がし、僕が構えた鬼切丸の鞘に、僅かに重みを感じた。
 その瞬間、物凄い音と共に、小屋の戸がぶち破られた。

 全く鬼って奴は、考える頭がないのかね。
 そんな突進してこなくても、戸は引けば開くもんだ。
 驚くほど冷静に、僕は目の前の状況を、音のみで分析しようとした。

 あれ?
 でもさっき、戸がぶち破られたの、見えたよな。

 そう思い、初めて僕は、自分が目を開けていることに気付いた。
 いや、正確には、僕が見ているわけじゃないんだ。

 さすがに僕も、こんな状況---目の前にはでかい穴が開いていて、その前に、少し前に見た筋肉隆々の鬼が、目を光らせて立っている---見たら、気力も萎えるって。
 それどころか失神するかも。
 そいで、ジ・エンド。

 でもほら、そんなことを考えられるぐらい、僕は鬼を見たまま冷静なわけさ。
< 26 / 30 >

この作品をシェア

pagetop