手拭い村の奇祭
 そして僕は今、一軒の家にいる。
 何か、農民の人に連れられて、この家に通されたんだ。

 家っつーか、小屋だけどね。
 あの農家の離れとかなのかな。

 僕はTシャツにジーンズだったんだけど、Tシャツは破れちゃってたから、服も貸してくれた。
 服っつっても、和服だけど。
 着方がわからなくてもたもたしていると、侍が手を貸してくれた。

 着替えを済ませて、怪我も農民の一人が洗ってくれて。
 ようやく人心地ついたところ……と言いたいところだけど、生憎僕は、まだ状況が理解出来ない。

「なぁ」

 とりあえず、ずっと傍にいる侍に声をかけてみる。

「ここはどこだ? あんたは誰だよ。何かの撮影なの?」

「ここは手拭い村。わしは九鬼 佐馬ノ介(くき さまのすけ)。鬼切丸とも言うがな」

 侍は、よどみなく答えた。
 さらっと教えてくれたってことは、こいつは敵ではないのかな。
 じろじろ見ていると、侍が顔を顰めた。

「不躾だぞ。そう人を見るものではない、宗士」

 えええっ。
 普通にこいつ、僕の名前を呼んだぞ?
 誰だよ、芸能人に身内はもちろん、友達だっていないぞ?

 僕が心底驚いた顔をしたのだろう。
 侍---サマノスケ? とかいったかね、が、ちょっと笑ったんだ。
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