ルナティック・コンチェルト

そんなものいるわけがない。
啖呵を切ってしまった手前、半ば意地で私はそこにいた。
木々が風に揺られ、ざわつく。6月の湿った空気が肌を包む。森の入り口に、私は立っていた。
スマートフォンの灯りが頼りなく辺りを照らす。時刻は9時。月のない、星の見えない夜だった。
暗い、というより、視界が黒い。

ちょっとばかりの後悔をしていた。
来るんじゃなかった、帰ろうか。
とりあえず、ここまできた証拠として写真を撮る。
かろうじて、木々が見えるように映った写真をクラスのLINEのグループに送る。
『森なう』
送った途端に、ピローンとこの場に相応しくないマヌケな音が返ってきた。
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