【彼女のヒミツ】
4
森永里子と水谷 玲が、館内で、ある本を探していた。随分永い間探している。
作画の資料となるものだ。玲も里子のために一緒に探していた。
目当ての本を見つけたのは里子だった。
彼女は目的の本を振って玲に知らせた。里子に気づいた玲は、彼女に向け親指を立てた。
自分達の席に戻ると、一人の男子が壁ガラスに向かって立っていた。
窓ガラスに叩きつける雨を見た玲が「あっ」と声を上げた。
声と同時に男子が振り向いた。彼女は続けて「すごい雨」と言った。
振り向いた男子を見た里子は、心の中で、あっ、と呟いた。
声には出していないが、彼女の唇は半分開いて止まっていた。
里子は窓際に立つ男子を知っていた。
クラスメイトの仲間礼二。学年でトップクラスの秀才だ。
不意に背後から「れいじく~ん」と声がした。
図書館で大きい声は厳禁なのに。里子は、館内の風紀を乱す声主にできれば注意したかった。
里子は背後からした男の顔を見て、さらに驚いた。
彼も知ってる顔だったからだ。中尾真也。
仲間礼二は玲の顔を見ながら、呆然としている。
玲は仲間と中尾を交互に見つめ、ん?ん?と首を傾げている。
玲は驚きの表情を浮かべる里子に「知り合い?」と耳打ちした。
彼女はゆっくりと頷いた。
中央図書館の二階に談話室が三つ設けられている。
室内は男女共に二人ずつ居る。男は一人ずぶ濡れだった。
談話室に行こうと提案したのは中尾真也だった。彼は自販機でジュースを四本買い、テーブルに置いた。
中尾はリュックからタオルを出すと、髪を乱雑に拭いた。
何気にジュースを買う中尾の配慮、さらにタオルを持っていることに対して、準備がいいな、と里子は思った。
中尾以外はパイプ椅子に腰掛けている。自己紹介もないまま、突然中尾が云った
「今日、本田宗一郎が死んで七回忌だね。彼の功績は歴史に大きく刻んでいる」
全員が「えっ」と疑問を投げるように応えた。彼のTシャツは、身体が透けるほど濡れていた。
中尾はその場の空気を読まずに続けた。
「世界のホンダの創業者。知らない?」
彼はきょとんとしながら云う。その場にいる四人は、ぽかんとしていた。
森永里子と水谷 玲が、館内で、ある本を探していた。随分永い間探している。
作画の資料となるものだ。玲も里子のために一緒に探していた。
目当ての本を見つけたのは里子だった。
彼女は目的の本を振って玲に知らせた。里子に気づいた玲は、彼女に向け親指を立てた。
自分達の席に戻ると、一人の男子が壁ガラスに向かって立っていた。
窓ガラスに叩きつける雨を見た玲が「あっ」と声を上げた。
声と同時に男子が振り向いた。彼女は続けて「すごい雨」と言った。
振り向いた男子を見た里子は、心の中で、あっ、と呟いた。
声には出していないが、彼女の唇は半分開いて止まっていた。
里子は窓際に立つ男子を知っていた。
クラスメイトの仲間礼二。学年でトップクラスの秀才だ。
不意に背後から「れいじく~ん」と声がした。
図書館で大きい声は厳禁なのに。里子は、館内の風紀を乱す声主にできれば注意したかった。
里子は背後からした男の顔を見て、さらに驚いた。
彼も知ってる顔だったからだ。中尾真也。
仲間礼二は玲の顔を見ながら、呆然としている。
玲は仲間と中尾を交互に見つめ、ん?ん?と首を傾げている。
玲は驚きの表情を浮かべる里子に「知り合い?」と耳打ちした。
彼女はゆっくりと頷いた。
中央図書館の二階に談話室が三つ設けられている。
室内は男女共に二人ずつ居る。男は一人ずぶ濡れだった。
談話室に行こうと提案したのは中尾真也だった。彼は自販機でジュースを四本買い、テーブルに置いた。
中尾はリュックからタオルを出すと、髪を乱雑に拭いた。
何気にジュースを買う中尾の配慮、さらにタオルを持っていることに対して、準備がいいな、と里子は思った。
中尾以外はパイプ椅子に腰掛けている。自己紹介もないまま、突然中尾が云った
「今日、本田宗一郎が死んで七回忌だね。彼の功績は歴史に大きく刻んでいる」
全員が「えっ」と疑問を投げるように応えた。彼のTシャツは、身体が透けるほど濡れていた。
中尾はその場の空気を読まずに続けた。
「世界のホンダの創業者。知らない?」
彼はきょとんとしながら云う。その場にいる四人は、ぽかんとしていた。