【彼女のヒミツ】
里子は軽くうなずくとそのまま俯いている。

「お里も本を借りに来たのかい?」彼の口調は柔らかだ。

里子はゆっくり頭を横に振った。中尾は彼女に何をしにきてるのか優しく訊いた。

勉強と絵本を──とだけ彼女は答えた。絵本という単語に彼は興味を抱き「是非みてみたいね」と里子に頼んだ。

彼女は困惑した顔を見せた──ように中尾は感じ取れたが、長い前髪で里子の表情はよくわからなかった。

彼女は「こっち」と呟くと自分の席に案内した。彼はどんな絵本を描いているのか、胸をわくわくさせた。

案内された場所に水谷 玲がいた。

「やっほー玲ちゃん」中尾がいうと、里子が人差し指を唇にあて、彼に向かって、しー、と示した。

彼は小声でわりぃ、と顔をしかめた。その光景を見ていた玲がクスッと笑った。

中尾が八割ほど完成している絵本を読んだ第一声、よくできてる、小声だった。玲はありがとうと礼を言った。里子も嬉しそうだ。

こなた良いよこなた、と彼は主人公の猫こなたを絶讃した。

さらに彼は玲の文章の卓越さ、里子の絵の素晴らしさを説いた。最後に彼は、二人は最強のパートナーだね、と褒め称えた。

そういえば、夕立の日もこの場所にいたけど、と中尾は話を変え、彼女達に質問した。

「いつも図書館にいるのかい?」

「はい。中央図書館は広くて環境も良いから」玲が陽気に答えた。

「今日はれいじくんいないみたいだけど」そういうと彼は少し周りを見渡す。

「あの日仲間くんとは偶然会ったんです」玲が答える。

ふぅーんと鼻を鳴らし「そっかぁ」と中尾はいった。

「明日から図書館盆休みだけど、予定は?」彼は玲と里子の顔を交互に見ながら訊いた。

「決まった予定とかは──」玲は里子の顔をちらっと見ると「ないよ、ね?」彼女に確かめるように答えた。

「うん」里子は俯きながらいった。

それを聞いた中尾は「じゃあ明日プールに行かないかい?」間髪を容れずに二人を誘った。

彼女らは顔を見合わせた後、当惑した表情でやんわりと誘いを断った。水着がないという理由だ。

中尾はじゃあ今から水着を買いに行こうと提案した。

「えっ、私たちそんなお金も無いし、それにプールなんて全然」玲が中尾に向かって両手を細く振った。

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