【彼女のヒミツ】
「明日俺たち三人でプールに行く予定なんだ」中尾は、そこで、と付け加え「れいじくんも来ないかなぁ~ってね」彼はいい終えるといたずらっぽく首を傾げた。

「……明日は塾だよ。俺にプールなんて行く暇はない」礼二ははっきりと言った。「それに──」君たちと遊ぶほど仲良くないだろ、と言おうとした

「玲ちゃんの水着姿」

中尾が横やりの言葉を吐いた。それを聞いた礼二は「んぐっ…」言葉に詰まった。不覚にも玲の水着姿を想像してしまった彼は、思わず生唾を飲み込んだ。

いいかい、というと、中尾は息を軽く吸い込みいった。

「俺たちは十七歳だ。青春の真っ只中だよ、わかるな。青春の使い道は人それぞれだ、そいつの好きなように、自由にエンジョイすればいいさ。」

「ただな」彼は続けた。

「一度きりの人生、青春時代に恋をしなければ、一生後悔するぜ」

中尾は一差し指で、礼二の顔を指差していった。

「惚れてんだろ。玲ちゃんに」

礼二は身体が熱くなるのを感じた。その身体中のほてりが一気に頭に昇った。

「顔が赤いぜ。れいじくん」

からかう言葉とは裏腹に、中尾の顔は真剣だった。

「……お前に何が分かるんだ」絞り出した言葉だった。

すると突然、中尾が叫んだ。

「今をときめけ、明日にきらめけ」

中尾は、強引に礼二を自転車から引きずり降ろすと、勝手に彼の自転車跨がり、ひゃほーいと言葉をあげ、玲と里子のいる場所まで乗っていった。

しばし呆気にとられた礼二だったが、あ、おい、と声を出し、中尾の後を追った。






午後五時を回っているが、日差しはさんさんと降り注いでいる。仲間礼二、中尾真也、森永里子、水谷 玲の四人は、目抜き通りを歩いていた。

交差点を隔てた前方には、有名な百貨店が建ち、向かって左側には最近リニューアルされた映画館。

道路を隔てた右手に、ブティックが網羅された円柱のショッピングモールがそびえ建っている。モールの壁には巨大液晶画面が備え付けられていた。夕方になると、さらに人の数が多くなる。

彼らは信号を渡り、モール内へと足を踏み入れた。全て中尾の先導である。礼二は、結局誘われるままついてきてしまったと考えつつ、先程彼が財布の中身を訊いてきたことに対して、少し気になっていた。
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