【彼女のヒミツ】
中尾は「おわっ」という断末魔を上げ、激しい水飛沫をあげて水中に消えた。里子はしてやったりの顔をしている。ばたばたと水中から顔をはい出した中尾の髪は、顔中に張り付いていた。

「ざまぁないな」礼二は中尾を指差し笑った。隣りにいる玲も、その光景に爆笑していた。

四人は時を忘れて遊んだ。

ふと礼二は、いつになくはしゃいでいる里子の異変に気づいた。

いつもは長く垂れた前髪と俯いた姿勢で顔ははっきりと見えないが、現在里子の髪は、水に濡れてオールバックとなっている。

先ほどまで、全く意識せずに里子を見ていた。玲にばかり目を向けていたからだが、改めて、はっきりと彼女の顔を見た瞬間、礼二の表情から笑みが消えた。

うそ──彼は呟いていた。

里子の顔が予想を超えた可愛さだったからだ。くっきりとした二重な目は、アイドルを彷彿させた。礼二には、水飛沫が里子の周りで、きらきら輝いているように見えた。

しばらくぼう然と中尾と里子が戯れる姿を眺めていた礼二に「どうしたの?」と二人の絡みを笑いながら見ていた玲が、声をかけてきた。彼女の表情は笑顔の余韻が残っている。

「いや、なんでもないよ。それより腹減ったね。俺、なんか買ってくるよ」礼二は、水から上がろうとした。すると玲は「まって、私とさっちゃんでね、お弁当作って来たんだ」といった。

彼女は中尾と里子に「ねぇ、お昼にしようよ」大きな声で言う。

丁度中尾の頭を両手で水中に沈めていた里子が、玲に向かって「うん」声高らかに答えた。礼二は里子の声色に、なぜか安らぎを感じた。








弁当を目の前にすると、礼二の腹の減りが一段と増した。

男の人がどれくらい食べるかわからないから、いっぱい作ってきちゃった、という玲の言葉が示す通り、量が多かった。里子の持参したサンドウィッチもうまそうだなと礼二は思った。

礼二と中尾は、弁当にがっついた。餌に群がるハイエナのような喰いっぷりを、彼女らに披露する形となった。玲は最初、彼らの食欲に驚いた様子だったが、途中からどんどん食べてと煽っていた。

礼二は里子に、サンドウィッチすごいおいしいよ、と誉めた。すると彼女は「よかった」と呟いた。里子の唇が微笑んだように見えた。


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