【彼女のヒミツ】
礼二が、最後のたまご焼きを箸でつまんだ、同時に、中尾もたまご焼きに箸を伸ばしていた。二人の視線が宙で火花を散らせた。

「俺が先だ」中尾がいった。左手には、ハムサンドを持っている。礼二もたまご焼きを譲る気はなかった。

玲と里子は彼らを、まじまじと見ている。「ジャンケンだ」礼二は提案した。よし、中尾がそれにのった。彼はハムサンドを口に詰め込むと、立ち上がった。もぐもぐと口を動かしながら「はい、じゃーんけーん」と拳を振り上げた。

すると礼二は、ひょいとたまご焼きを口の中に入れた。あーーー、中尾は悲痛に似た叫び声をあげた。

礼二は、箸を中尾に向けていった。「早いもん勝ち」礼二はふふん、と鼻を鳴らして笑った。

中尾は箸を噛みながら、悔しそうに顔を歪めた。

玲はその光景をくすくす笑っている。里子も表情をゆるめていた。

残さずきれいに食べ終えると「作りがいあるね。ねっ、さっちゃん」玲が里子にいうと、彼女は「頑張って作ってきてよかった」といった。

なぜか礼二は、その里子の優しさに、熱いものが胸から込み上げてきた。彼は、これまで里子に抱いてきた、自身の心を恥じた。

昼食を済ませた四人は、午後からアトラクションを楽しんだ。礼二は久しぶりに心の底から笑った───

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