【彼女のヒミツ】
坂を上がりきると、礼二は自転車に跨がり、軽快に走り始めた。

次の交差点を南に二十メートルほど下れば、中央図書館がある。

広い敷地に立つ建物の外観は、どこかの芸術家が設計したのだろうと思わせるたたずまいで、コンクリート造りの壁に、巨大な板ガラスが打ち込められ、道路側から館内の様子が見えるようになっている。

塾に行くには、次の交差点を右折しなければならない。しかし彼はそのまま真っ直ぐ下った。

礼二は横目で館内を一瞥した。すると彼の胸は高鳴った。

中央図書館の広い駐輪場を隔てた向こう側、館内の一番端にお目当ての彼女を発見したからだ。

礼二はその場で自転車を停止させ、彼女を眺めた。

日の当たりの良い窓際、木製の椅子に腰掛ける美少女。彼女はそこで本を読んでいる。

肩まで届いた黒髪は、陽射しを浴びて輝いていた。

花柄のワンピースの上から、短いマントのような布を羽織っている。館内の冷房対策なのだろうと、彼は思った。

礼二は、名前も何も知らない美少女に好意を抱いていた。

彼女を見かけるだけで、その日が幸せに感じるほどだった。

彼女の顔立ちは少し大人っぽいが、年齢は自分とさほど変わらないのではないかと、彼は予想している。

彼が遠回りをする理由、それは、中央図書館の名も知らない美しい少女を眺めるためであった───




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