【彼女のヒミツ】
そして今日、八月二十八日。星空を見に行こうと中尾の提案で、花火を見たあのみやびが丘まで、自転車で向かっている。
玲と里子は、礼二と中尾の荷台に載せて走っているのだ。
みやびが丘までの道のりは、中央図書館から自転車で四十分かかる。中央図書館から荒石山付近まで、三十分ほど行くと、久我神社が見える。
久我神社の手前を東に曲がり、真っ直ぐ山沿いを進む。しばらく道のりに進み、人里離れた鉄橋を渡れば、蛇のように曲がりくねった石段が天に向かうように延びている。その頂上がみやびが丘である。
「風が強くて気持ちいいね」
歌を口ずさむように玲が言った。山沿いを走る礼二は自転車を漕ぎながら、中尾の自転車の後部に横坐りをする玲をチラッと見た。
彼女は風にあおられる髪を片手で押さえていた。彼女の髪は走る馬のたてがみのように後方へ流れている。
礼二は美しい風景画を眺めるかのように、玲にみとれてしまった。
「仲間くん。前。ぶつかる」
礼二の自転車の後部に坐る里子が、冷静に注意を促した。
前方を見た礼二は「うゃっ」と情けない声をあげ、慌ててハンドルを右へ切った。もう少しでガードレールにぶつかるところだった。
ガードレールの向こうは、谷になっていたので礼二は胸をなで下ろした。
その光景を前をいく中尾が振り返り見ていた。彼は礼二のぶざまな姿を見て肩をゆらして笑っていた。
玲は大丈夫?と心配げな表情を浮かべている。礼二は顔から湯気がでるほどの恥ずかしさを感じた。
風が澄んでいる。夜虫の鳴き声がクラシック音楽のように耳に心地良く響いた。
四人はみやびが丘の頂上へ着くと空を見上げた。あいにく上空には一面雲が覆っていたため、星は見えなかった。
「残念だっちゅうの」
中尾は頭を下げ「帰りにサイダーおごるから許して」彼女らに手を合わせて謝っている。
「じゃあ許しちゃう」玲は笑顔で言った。里子は空を見上げていた。
礼二もあごを上げた。
星は全く見えないが、そんなことは関係なかった。玲と一緒にこの場所にいる。それだけで幸せだった。
いつしか誰も口を開かなくなっていた。全員が空を見上げながら、それぞれの思いに更けているようだった。
玲と里子は、礼二と中尾の荷台に載せて走っているのだ。
みやびが丘までの道のりは、中央図書館から自転車で四十分かかる。中央図書館から荒石山付近まで、三十分ほど行くと、久我神社が見える。
久我神社の手前を東に曲がり、真っ直ぐ山沿いを進む。しばらく道のりに進み、人里離れた鉄橋を渡れば、蛇のように曲がりくねった石段が天に向かうように延びている。その頂上がみやびが丘である。
「風が強くて気持ちいいね」
歌を口ずさむように玲が言った。山沿いを走る礼二は自転車を漕ぎながら、中尾の自転車の後部に横坐りをする玲をチラッと見た。
彼女は風にあおられる髪を片手で押さえていた。彼女の髪は走る馬のたてがみのように後方へ流れている。
礼二は美しい風景画を眺めるかのように、玲にみとれてしまった。
「仲間くん。前。ぶつかる」
礼二の自転車の後部に坐る里子が、冷静に注意を促した。
前方を見た礼二は「うゃっ」と情けない声をあげ、慌ててハンドルを右へ切った。もう少しでガードレールにぶつかるところだった。
ガードレールの向こうは、谷になっていたので礼二は胸をなで下ろした。
その光景を前をいく中尾が振り返り見ていた。彼は礼二のぶざまな姿を見て肩をゆらして笑っていた。
玲は大丈夫?と心配げな表情を浮かべている。礼二は顔から湯気がでるほどの恥ずかしさを感じた。
風が澄んでいる。夜虫の鳴き声がクラシック音楽のように耳に心地良く響いた。
四人はみやびが丘の頂上へ着くと空を見上げた。あいにく上空には一面雲が覆っていたため、星は見えなかった。
「残念だっちゅうの」
中尾は頭を下げ「帰りにサイダーおごるから許して」彼女らに手を合わせて謝っている。
「じゃあ許しちゃう」玲は笑顔で言った。里子は空を見上げていた。
礼二もあごを上げた。
星は全く見えないが、そんなことは関係なかった。玲と一緒にこの場所にいる。それだけで幸せだった。
いつしか誰も口を開かなくなっていた。全員が空を見上げながら、それぞれの思いに更けているようだった。